the pillowsのニューアルバム『REBROADCAST』は来年30周年を迎える彼らが自分たちの音楽人生の「再放送」の登場人物として振り返りながらも前に進んでいくアニバーサリーイヤーに相応しい作品だ。今回の30周年は『THANK YOU, MY HIGHLIGHT』と名付けられている。あの日あの時あの場所で迎えたハイライトに再びスポットを当てることでバンドは何を感じどんな音を鳴らすのか。22枚目のアルバム『REBROADCAST』を完成させた山中さわおに話を訊く。
Q.今作はいつ頃から制作していたのですか?
山中:とにかく僕は普段から曲を沢山作っているので、アルバムのリリースを目指して曲を作った訳じゃなくて、アルバムを出すって言われる前から勝手にどんどん曲を作っているんですよ。例えば「Binary Star」とか「Starry fandango」は前作の『NOOK IN THE BRAIN』の頃にはもう曲としては出来ていたり。歌詞はあまり頑張って書くタイプじゃないから書く気になるのを待つんだけど。「眩しい闇のメロディー」なんかは「純平、考え直せ」という」映画の主題歌の話を頂いて、映画のストーリーを聞いたら10年前くらいに書いた曲でぴったりなテーマの曲があるなって弾き語りのデータを引っ張り出してきたり。だからアルバムの為に曲を作るっていう作業は殆どないソングライターなんですよね。そうやって完成仕切れていなかった曲や10年前の曲が入ってきた中で、「再放送」というキーワードが浮かんできたんです。再放送というキーワードでアルバムをまとめるとバンドの歴史をもう一度取り入れながら遊べるなって。なので、そこから作った曲はちょっとだけテーマを意識したと思います。
Q.テーマが決まったことでそこに合うパズルをどうはめていくかという。
山中:そうですね。僕はかなり曲順を気にするタイプなんですけど、音楽的には勿論だけど、リスナーが聴いたときに感情が流れていくようにしたいので。それを踏まえてアルバムの後半は手持ちの駒をどうはめていくかっていう作業でしたね。
Q.再放送がテーマとなったアルバムの最後を「Before going to bed」で締めくくるのが凄くしっくりきます。
山中:あの曲はアルバムの中で9番目に書いた曲なんだけど、ベッドで眠る前に、少年時代の僕、上京してthe pillowsを始めた僕、29年間バンドをやっている僕の感謝の気持ちを歌ったドキュメンタリーで。僕らの周りには優しくしてくれる人がいて、コミュニケーション能力が欠けていた僕の音楽を色んな人がサポートしてくれているんですよ。そういう人達に30周年のアニバーサリーを迎えるタイミングで感謝を伝えたいなと思って書いた曲ですね。
Q.それもアニバーサリーにバンドを再放送させたからこその感情だと思うのですが、「Before going to bed」では「人生は一度きりだ」とも歌っています」。これは再放送して気付いたことなのでしょうか?
山中:ああ、でもそこまでシリアルな魂の叫びというよりは「自分の音楽人生の再放送の登場人物になりたいな」くらいの、ビールを飲みながらワイワイ話す夢物語だったりするので、この曲を作るのに何か特別な一大決心があった訳ではなくて。単純に昔を懐かしむ年齢になったんだなって素直に思って、こういう曲も書きました。でも現実世界ではそうじゃなくて、人生は一度きりだし再放送もやり直しも出来ないから、みんな一秒一秒を必死に生きているんだっていうドキュメンタリーがあってこその『REBROADCAST』というアルバムが出来たと思います。
Q.音楽的な面でもこの数年のthe pillowsはまたオルタナ的なアプローチをしているように感じます。「Binary Star」のファズとか「これこれ!」っていう。
山中:ああいうのってthe pillowsピロウズらしいってよく言ってもらうんだけど、僕らのことを好きだって言う後輩が誰も真似してくれないのは何でだろう(笑)。ファズギターサウンドに割とクールな歌を乗せるのは僕らの得意とするところですよね。何でみんなやんないんだろう(笑)。
Q.専売特許なんじゃないですか(笑)。ギターで言えば「ニンゲンドモ」のファミコンみたいなイントロも面白いなと。
山中:まさにコンピューターゲームで鳴ってるような、80年代にシンセでやりそうなフレーズを敢えてギターでやるっていう。しかも歌が始まったら一切弾かない。この曲って割と淡々と進んでいくから飽きないで最後まで進行するには背景に工夫が必要なんですよね。だからってこれ見よがしにアレンジするのも違うから、普通に聴いていても気付かないくらいの工夫でいいんですよ。それでギターとベースがちょっとだけ技を変えたりnoodlesのyokoちゃんにも参加してもらって曲に変化を付けてるんです。
Q.「Starry fandango」の電子音のリフもそういう要素がありますよね。
山中:あのフレーズは最初トランペットでやりたかったんですよ。だけどトランペットで試してみたら音階が合わなくて。1オクターブ下げちゃうと渋くなっちゃうし。だけどシンセってイメージもないからどうしようかって考えていたときに「Thank you,my twilight」って曲で、過去にたった一回だけ使った電子音を思い出したんですよ。それで再放送っていうテーマとも繋がると思ってもう一度電子音でやってみたらしっくりきたっていう。結果的にはトランペットよりはまってるんじゃないかな。
Q.先ほどyokoさんの名前も出ましたが、Casablancaとしてではなく、the pillowsとして一緒に歌ってみていかがでしたか?
山中:歌の愛称が凄く良いんだなって改めて思いましたね。Casablancaでもツインヴォーカルはやっているんですけどやっぱり良いなと。
Q.さわおさんから見たyokoさんはどんなミュージシャンですか?
山中:ロックの教科書を読まない人かな。僕も出来れば読みたくないんだけど、ついチラチラ見てしまうんですよ。そうすると常識が身についてしまうんです。それが斬新なアイデアを阻害することがあるんですよ。だけどyokoちゃんは教科書を読まないタイプなので良い意味でルールがない。だからやりたいことをやりたいようにフラットでやれている人だと思いますね。アコースティックギターってエレキギターより弦が硬いじゃないですか。僕は普段からエレキを弾いてるから指が痛いって話をyokoちゃんにしたんです。そしたら彼女は「私はアコギにエレキの弦を張ってるよ」って言うんです。僕はこれまでそんなこと考えたこともなかったのでびっくりして。それで実際に張ってみたらアコギでもエレキでもない不思議な楽器になって(笑)。でもそれはそれで成り立っちゃうんですよね。そういうぶっ飛んだ発想をする人なんです。ロックの教科書を読んでいたら絶対やらないですから(笑)。
Q.クックパットを見るのではなく感覚で料理すると。
山中:調味料これで良いじゃんって(笑)。またそれが美味しいっていう(笑)。でもそうやって狙ってもいない何かが生まれるから面白いなと。
Q.遠い昔、音楽が始まるきっかけもそうだった気がします。
山中:特にロックはそうかも。そう思うと更に面白いですね。
Q.「ぼくのともだち」ではさわおさんの音楽人生の始まりも垣間見れます。少年さわお記だなと。
山中:あははは。僕は中学1年の頃にラジオでロックと出会って人生が変わったんですけど、その頃からずっと友達の岩田晃次っていう同級生がいて。彼は凄く才能のある人で。少年の頃に岩田の家に遊びに行ってロックを聴いて大興奮していたんです。バンドメンバーもいないのにバンド名を考えたり(笑)。そんな友人が体調を悪くして心も疲れてしまい、今は音楽をあまりやれない状況になっているんです。でも音楽は作っているみたいなんですけど完璧主義者過ぎてすぐ没にしちゃう。僕は何が駄目なのか全然分からないのに(笑)。そんな彼の音楽がやっぱり僕は好きだし聴きたいので、もう一度窓を開いて出て来てくれって気持ちを込めて作った曲なんです。
Q.この曲を岩田さんには贈りました?
山中:いや、まだですね。今は住んでる場所も離れているし、お互いパソコンを持ってないのでデータのやりとりが出来ないんです。しばらく会ってないですしね。それに「これ、お前の曲なんだ」っていう感じでもないかな(笑)。察して欲しいです(笑)。
Q.さわおさんの少年時代に触れた気がして、エピソードゼロというか、いい話の時のドラえもんを見ているような気持にもなりました。
山中:映画版とかね。って誰がのび太だ(笑)。
Q.あははは。でも、ちゃんとそこも再放送がリンクしてくるんですよね。「Bye Bye,Me」でも歌詞に「Rebroadcasting」と出てきますし。
山中:そうなんですよ。アルバムタイトルが『REBROADCAST』で「Rebroadcast」という曲もあってアルバムの中で最後に出来た「Bye Bye,Me」でも「Rebroadcasting」という単語が出てくる。そこは再放送というキーワードで繋がっていますね。
Q.アルバムとしての流れが本当に映画みたいなんですよね。少年時代のさわおさんも、駆け抜けたthe pillowsとしてのさわおさんも、今のさわおさんも、色んな角度からさわおさんを感じられる、来年30周年を迎える今だからこそのアルバムだなと。
山中:そうですね。それは作りながら頭にあったと思います。さすがに30年間って長いじゃないですか。その間ずっとシンプルなことしかやってないですからね。新曲作ってレコーディングしてツアーを回るっていう。これをひたすらやってきたんだなっていう。音楽人生感慨深いですよ。
リリース情報
the pillows
タイトル:REBROADCAST
2018年9月19日発売
DELICIOUS LABEL
初回限定盤【CD+DVD】
QECD-90008(BUMP-078) / ¥3,500+税
通常盤【CDのみ】
QECD-10008(BUMP-079) /¥3,000+税
REBROADCAST TOUR
2018年
11月23日(金・祝)長野 CLUB JUNK BOX
11月25日(日)渋谷 CLUB QUATTRO
11月30日(金)名古屋 CLUB QUATTRO
12月2日(日)大阪 BIGCAT
12月8日(土)水戸 LIGHT HOUSE
12月23日(日)高崎 club FLEEZ
2019年
1月20日(日)東京 マイナビ BLITZ 赤坂
1月25日(金)金沢 EIGHT HALL
1月27日(日)新潟 LOTS
2月1日(金)浜松 窓枠
2月3日(日)岡山 YEBISU YA PRO
2月5日(火)徳島 club GRIND HOUSE
2月7日(木)松山 SALON KITTY
2月9日(土)松江 canova
2月11日(月・祝)広島 CLUB QUATTRO
2月13日(水)鹿児島 SR HALL
2月15日(金)那覇 桜坂 Central
2月17日(日)福岡 DRUM LOGOS
2月22日(金)宇都宮 HEAVEN’S ROCK VJ-2
2月24日(日)仙台 Rensa
2月26日(火)盛岡 Club Change WAVE
2月28日(木)青森 Quarter
3月2日(土)旭川 CASINO DRIVE
3月3日(日)札幌 PENNY LANE 24
3月8日(金)名古屋 DIAMOND HALL
3月10日(日)大阪 Namba Hatch
3月17日(日)東京 Zepp Tokyo