僕にはこれしかないから。田中聖がソロ名義で初となるフルアルバム『Easter』の冒頭を飾る「The Canvas」で歌っている言葉だ。
2017年大晦日、柏パルーザでの復帰ライブを彼はマイナスからのスタートだと語っていた。葛藤もあっただろう。悔しい思いもしたと思う。敢えて書く。あの事件が起き、田中聖は大麻取締法違反で逮捕され、そのニュースは連日報道され、その後不起訴処分となるも、2017年9月1日にバンドは夢半ばで解散した。そのバンドは守るべき約束、叶えるべき夢があったのを知っている。だがしかし、不起訴処分なのだ。名前が知られているということはとても怖く、そしてショッキングかつネガティブなことほど浸透する。逮捕時、鬼の首を取ったように報道したメディアはその何倍も不起訴を伝えろ。煽った分だけ弁護しろ。田中の苦悩を考えると心が締め付けられる気持ちになった。田中を応援するファンの気持ちを考えると胸が痛くなった。活動を再開した2017年大晦日、マイナスからのスタート。その道のりの先にあるのが今作『Easter』だ。
真っ白だったキャンバスが真っ黒になってそれでも新しい色に変えるべくそこに夢を描くことを再び始めた田中聖としての再出発を疾走感とともに歌う「The Canvas」は今の田中の心情が飾ることなくそのまま表れている。なんて力強くなんて魂の籠った歌だろう。キャンバスが見えなくなったとしても何度も塗り直せばいい。田中がここからどんな色をこのキャンバスに足していくのか、しっかりと見届けたい。そう強く思わせる彼の決意表明に胸が熱くなる。
復活の狼煙は完全に上がった。それを否が応でも感じさせるのが「RAPGAME」だ。まるでジェットコースターのような目まぐるしい展開のバンドサウンドの上で走り回るように全身全霊でラップする田中。トラップの要素とハードなギターが共存する楽曲が実に田中聖らしく興奮する。そんな中飛び込んできた「J da O da K da E da R 指定」のリリック。これには声が出た。もう完全復活だ。自分のやってきたこと全部を背負って次に行く。こうなったらもうとことんだ。続く「JUMP」でも大爆発してる。この痛快さは心の底からスカッとする。しかしこの音楽性の幅と流行を俯瞰して見る視点と圧倒的なスキルには驚かされる。流行ってるものやイメージに囚われ過ぎているものを斜めから見極めるセンスと、じゃあそれをどう文化まで押し上げるかをちゃんと見ているのがこの男なのかもしれない。散々煽っておきながら流行りのフロウをサラッとこなすのも田中の恐ろしいところだ。もう誰にも止められない。止める必要もない。「Turn it up」のような夜をまたこうして過ごせることがたまらなく嬉しい。限界まで騒ぐことで分かり合えることがライブハウスにはクラブにはある。音楽って最高だ。
「Thriller Party」のような音楽で遊んじゃう姿勢も好きだ。マイケル・ジャクソンの「Thriller」オマージュのこの曲はまるでゲゲゲの鬼太郎のような、学校も試験も何にも気にしないでみんなで踊りだしたくなってしまう楽しさがある。最高なのは「Thriller」でありながら「Wake up」というオチ。こういうことをやられると嬉しくなっちゃう。やはりバックボーンが垣間見える音楽や手法は面白い。曲間のトラップステップ感も最高だ。遊び心といえば「ヒトリースタイルダンジョン」だ。ラップバトルをアイ・ヴァーサス・アイでやり続けていくというアイディアにまず拍手。そしてその中でもちゃんと刺していくメッセージが詰め込まれていることも素晴らしい。オーバーグランドかアンダーグランドか、メジャーかインディーか、売れてるか売れてないか、いや本物かそうじゃないかだけ。田中聖が本物かどうかって?それは見て聴いて判断して欲しい。人のリアルなんか10通りある。その中で本当にリアルを追求している男の目はすぐ分かる。
「W.T.F」の破壊力もとんでもない。世界基準の最新のHIP-HOPのビートに、中指立てまくりのリリック。近寄ってくる奴が何を目的としてるかなんてすぐ分かる。繋がるには語らうに理由がある。抗って戦って逆らって、それでも繋がれるってことは対マン張ったらダチ方式だ。そうじゃない奴はノーサンキューってこと。田中聖が歌うリアリティ、めちゃくちゃあるな「W.T.F」。
そして田中聖が何度も何度でも飛び立てることを宣言する「F.O.M.O.」は今すぐ彼に会って話したいくらいあちこちにピンクの髪の怪獣へのリスペクトが散りばめられていてニヤニヤしてしまう。ひとつひとつ解説したいくらいドンピシャでハマっていて、それがひとつのストーリーになっている組み立て方も秀逸だ。何度でも飛ぼう、Sail away!ってことだ。「涙や苦しみさえも生きてく力へ」と歌う田中は本当に強いし、この歌詞に励まされる人も多いだろう。痛みも悲しみも食べてしまう。それが誰かにとっての田中聖なんじゃないかな、なんて思いながら「F.O.M.O」に勇気づけられてる自分がいる。
そして「雨津々」の優しさだ。きっとこの1年間で田中が感じてきた仲間の、ファンのぬくもりから生まれた曲なんだろう。こんなにも丸裸な歌を歌えるんだから本当に彼は人に恵まれているのだろう。そして何度も言うが、守るべき約束、叶えるべき夢があった田中がその約束を、その夢を諦めずまた叶えようとしていることがただただ嬉しい。暖かく寄り添うストリングスが刺を抜いてくれるようだ。歌ってくれてありがとう。そんなことをつい思ってしまう。そのままの流れで「ウタヲウタオウ」なんて歌を歌われたらどうしたらいい?嫌なことなんて忘れればいい。抱えてる過去に関係ねえよと言えるパワー。歌を歌うことって本当にパワーになるんだ。この曲を歌う田中の姿をライブで観たら流石に泣いてしまうだろう。
何故歌うのか。それは辞めたくない理由があるから。仲間がいるから。「Go way」を力強く思いっきり歌う田中の歌にも表情にも迷いは何もない。7個集めたら夢が叶うなんて話を聞いたこともあるけれど、壊してしまった夢のカケラならもう拾い集めたんでしょ。誰も邪魔なんてしない、もう突き進むだけ。何が起きるかなんて分からない。不可能を可能に変えることが出来るのは自分だけだ。何度だってやり直せばいい。何度だってやり直せばいい。「Easter」をアルバムの最後に聴けて本当に良かった。
田中聖がその名前で音楽を作るということの覚悟も決意も全部詰め込まれているアルバム『Easter』は等身大なんて言葉の何倍もの等身大だった。心のずっと奥の方まで届いた。音楽を続けてくれて本当に良かったとアルバムを聴きながら何度思っただろう。年が明け、2月からはツアーが始まる。どうか田中聖の生きる証を確かめに足を運んで欲しい。彼にはこれしかないから。
リリース情報
田中聖
タイトル:Easter
2019年1月23日発売
KOKI-001 3000円(+税)
Tanaka Koki presents Easter TOUR2019
2月2日@渋谷eggman (東京)
2月5日@名古屋CLUB UPSET(愛知)
2月7日@Yanagase ANTS(岐阜)
2月9日@京都GROWLY(京都)
2月10日@アメリカ村DROP(大阪)
2月11日@神戸 music zoo KOBE太陽と虎(兵庫)
2月13日@広島CAVE-BE(広島)
2月15日@LIVE rise SHUNAN(山口)
2月16日@福岡DRUM SON(福岡)
2月17日@熊本B.9 V2(熊本)
2月19日@SR HALL(鹿児島)
2月23日@Output 沖縄(沖縄)
2月24日@Output 沖縄(沖縄)
3月2日@八王子Match Vox(東京)
3月3日@静岡Sunash(静岡)
3月8日@高松DIME(香川)
3月9日@松山サロンキティ(愛媛)
3月10日@高知X-pt.(高知)
3月14日@下北沢Reg(東京)
3月16日@金沢vanvan V4(石川)
3月17日@新潟CLUB RIVERST(新潟)
3月21日@HooK SENDAI(宮城)
3月23日@苫小牧ELLCUBE(北海道)
3月24日@札幌COLONY(北海道)
3月31日@横浜BAYSIS(神奈川)
4月6日@柏PALOOZA(千葉)