岡崎体育

 

岡崎体育が約1年半ぶりとなるオリジナルサードアルバム『SAITAMA』を完成させた。アルバムタイトルからもその意気込みを感じることが出来るが、岡崎体育は2012年の活動当初より宣言し続けてきた夢のさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブを2019年6月9日に開催することが決定している。これまで「MUSIC VIDEO」「家族構成」「FRIENDS」など所謂「ネタ曲」が話題となったことでお茶の間や朝ドラまでその存在を知らしめた岡崎体育がこのタイミングで作り上げたアルバムは、なんとネタ曲を排除した自身の音楽にとことん向き合ったものなのだ。自身でスクラップアンドビルドを行うことでさいたまスーパーアリーナのステージに本当の意味での岡崎体育として立つことを選択したそのパンク精神はアルバム随所から感じることが出来る。現在、ホールワンマンツアーを開催中の岡崎体育にその真意を訊く。

Q.今回のアルバムは岡崎体育さんの魂が宿った作品だなと。
岡崎体育:ありがとうございます。そう受け取ってもらえると凄く嬉しいです。

Q.岡崎体育としての音楽的な側面をフィーチャーしたアルバムだと思うのですが、グッと遡って、音楽を始めた頃はどんなスタイルで活動していたのですか?
岡崎体育:ちゃんと始めたのは大学生の頃で、当時はロックバンドをやっていて、ネタっぽい曲とかちょけたことはやっていませんでした。そのバンドが解散して一度就職するんですけど、なんとなく音楽に対する夢が諦めきれなくて脱サラしてひとりで音楽を始めたのが岡崎体育なんですよ。それが会社を辞めた23歳の頃ですね。

Q.バンド時代はどんな音楽をやっていたのですか?
岡崎体育:自分達ではエレクトロパンクって言ってました。パンクっぽい曲にPCでシンセを同期させるみたいな。なので今やっていることとは全然違いますね。

Q.ネタ曲の構想は当時からあったのですか?
岡崎体育:会社を辞めて音楽をするときに親と4年間で結果を出す約束をしたんですよ。27歳までにメジャーデビュー出来なかったら音楽は諦めろって言われて。それで効率よくメジャーデビューするには何が良いか考えたんですけど、人目について話題になったら良いなと思いネタっぽい曲を作り始めたんです。

Q.その狙い通り「家族構成」や「MUSIC VIDEO」は映像と楽曲で笑わせるという革命を起こしましたよね。
岡崎体育:有難いことに物凄い反響を頂きまして。特に「MUSIC VIDEO」はメジャーデビューのタイミングということもあって予想以上に評価してもらえて嬉しかったですね。自分がやってきたことは間違えてなかったなって。でもそれと同時に、これでやっていくのかという不安と覚悟も感じていました。

Q.確かにネタ曲であれだけ話題になると次の手の打ち方を考えますよね。その中でリリースされた『XXL』はネタ曲だけでなく所謂真面目な音楽も数曲盛り込まれていて当時凄く斬新でした。
岡崎体育:そうですね。あのアルバムでやったことが今回のアルバムに繋がっていると思います。

Q.今作はネタ曲を排除して音楽的なアプローチに特化していると思うのですがこの構想は?
岡崎体育:企画の段階では今まで通りネタ曲を入れてミュージックビデオでバズらせようと思っていたのですが、夏頃に気持ちが変わって、今作りたいものだけを作って勝負したいと思ったんです。さいたまスーパーアリーナの前に出すアルバムとして、本当だったらネタ曲を作ってそこに繋げるのが綺麗な形だと思うし、それがデビュー当時に描いていた僕の3年構想に近いものなんですけど、活動を通して、普通に作った曲を評価してくれる人が増えたことで気持ちが変わったんです。

Q.音楽でも勝負がしたいと。
岡崎体育:はい。それは一般のリスナーさんからの評価でもあったけど、同業者の先輩にも「ネタ曲も面白いけど普通の曲も良いね」って言ってもらえたことが大きくて。それが自信に繋がったので今作はネタ曲を潜めて、普通に音楽で勝負しようと思いました。

Q.さいたまスーパーアリーナを目前にこういうアルバムを作ることって凄く勇気のいることだと思うし、めちゃくちゃパンクだなと思いました。岡崎体育に対する岡崎体育としてのカウンターでもあるなと。だからこそ決意を感じるんです。
岡崎体育:嬉しい。本当に自分が作りたいものが形になったと思っていますし、良いアルバムが出来たと自負していて。こういうスタイルでアルバムを作ることは僕にとっては覚悟だったし腹を括ったということでもあるので、正直な話、これでCDが売れなくても納得がいくんですよ。それくらいの覚悟で作ったので。このタイミングで普通に作った曲で評価されなかったら、さいたまスーパーアリーナのステージに立つのは違うんじゃないかなって。
こういうアルバムが評価されてこそ意味があると思うんですよね。だから本当に勝負です。これが評価されなかったら岡崎体育は終わりです。

Q.その覚悟は「からだ」に凄く表れていますよね。
岡崎体育:あの曲はインディーズ時代に書いた曲のリテイクなんですけど、さいたまスーパーアリーナに対して牙を剥いていたり睨みつけていた当時の精神が表れている曲なのでこのタイミングで歌うことは僕にとっては覚悟なんですよね。

Q.そもそも何故さいたまスーパーアリーナだったんですか?
岡崎体育:大学の頃にニコニコ動画の「歌ってみた」をやっているようなセミプロの人達が出ているフェスに友人に連れられて行ったんですけど、さいたまスーパーアリーナが満員になっていて。その状況を目の当たりにして得も言われぬ気持ちになったんですよ。ただただ悔しい気持ちが湧いたというか。それ以降、何の所縁があるわけでもないんですけど、ずっとさいたまスーパーアリーナでやるって言い続けてきたんです。

Q.悔しさがモチベーションになったと。それは「弱者」からも感じます。何かを起こす人、何かをひっくり返す人ってスクールカーストの下の方にいて「今に見てろ」と思ってた人だと思うんですよ。
岡崎体育:まさにその通りで、僕も大学の頃はMOBとして生きてたので。カルチャー、サブカルチャーどっちもだと思うんですけど、そういう場で活動している人ってカーストの高い所にいなかった人が多い気がします。僕もその一種だと思うし、輪に入れなかったりみんなでウェイウェイ出来なかったことに対する羨望を含んだ憎しみがこの曲には出ていますね。

Q.そういう経験や思いをラップに乗せているから「からだ」とかはリアルなんだなと。Creepy NutsのR-指定さんと同じ匂いを感じます。
岡崎体育:確かにそうかも(笑)。でも僕のラップと一緒にしたら申し訳ないです(笑)。

Q.いや、岡崎体育さんのラップも生き様がそのまま出てると思いますよ。
岡崎体育:ラップ自体がそういう文化ですしね。バックグランドがある人しかラップ出来ないと思うので。

Q.音楽的にも今作はかなり楽しめる作品だと思うのですが「PTA」からはニュージャックスウィング感を感じてニヤリとしました。
岡崎体育:この曲はニュージャックとか80年代90年代のアメリカのポップをやってみようと思って作りました。僕、色んなものに広く浅く興味があるんですよ。なので良いなと思ったら真似してみたくなるんです。そうやってトライ&エラーでやってます。

Q.「弱者」の歌詞にはDeath Cab for Cutieの名前も出てきますが、それを裏付けるように「Jack Frost」では岡崎体育流ポストロックも炸裂しているなと。
岡崎体育:まさにポストロックをやろうと思って書いた曲ですね。

Q.冬の妖精ジャックフロストから曲のイメージを広げていったのですか?
岡崎体育:この曲はドラムパターンとピアノから打ち込んでいって、出来上がったものが冬を連想させると思ったので仮タイトルとして「SNOW」って付けていたんですよ。そこからさらにブラッシュアップしていく中でより寒さを感じさせる為にタイトルに極寒の妖精の名前を付けることにしました。

Q.曲が先でテーマを決めることもあるんですね。ネタ曲とかは逆の作り方なんじゃないですか。
岡崎体育:曲の作り方はバラバラなんですよ。ネタ曲は先にテーマがあって肉付けしていくんですけど「Jack Frost」とかは普段思い付いたフレーズを使いたいが為にそれに合うテーマを探す作り方をしたり。もう本当にバラバラですね。

Q.「PTA」はタイトルから想像しなかったまさかの不倫ソングでしたが、「炊飯器のピーも無視」というフレーズがめちゃくちゃリアルだなと。
岡崎体育:あははは。そこ突っ込まれたの初めてです(笑)。

Q.岡崎体育、悪いことしてるなと(笑)。
岡崎体育:いやいやいやいや、全部想像です。だって僕、そもそも実家暮らしですから(笑)。

Q.昨今不倫がテーマのドラマが多いですけど全部「PTA」を主題歌にしたら良いのになって思いました。
岡崎体育:あははは。ドラマもニュースも不倫ばっかりですけど、そういうインモラルな感じってやっぱり日本人が食いつき易いのかもしれませんね。

Q.「なにをやってもあかんわ」は上手くいかない状況がストレートに描かれていますが、これはいつ頃の時期を歌っているのですか?
岡崎体育:今年の夏ですね。

Q.あ、意外と最近なんですね。
岡崎体育:ちょうどネタ曲を排除するかどうか迷っていた時期だったし、曲も全然書けなくてスランプ状態だったんですよ。それをそのままSNSに書いたんですけど、RIZEのKenKenが「スランプのときはスランプの状態を歌詞にしたら良いんだよ」ってリプライをくれて。それはグッドアイディアだなと。それで「なにをやってもあかんわ」と連呼する曲が出来ました。

Q.そういう気持ちを吐露しているからこそアルバム唯一のパンクソングなんですね。
岡崎体育:この気持ちをどう伝えるか考えたら思い浮かんだのはパンクでした。フラストレーション=パンクだなって。歌っていることはノンフィクションですね。人間味を感じてもらえると思います。

Q.言いたいこと言いまくったすぐ後に「確実に2分で眠れる睡眠音楽 (Interlude)」で寝ちゃうのも最高です。
岡崎体育:ふて寝ですね(笑)。

Q.これ、CDを聴きながら本当に寝れるか試したんですけど、確実に寝ますね。だから最後まで聴けない(笑)。
岡崎体育:あははは。大成功です(笑)。

Q.このインタールードがあることで岡崎体育らしさがアルバムに出ている気がします。
岡崎体育:そこを感じてもらえると嬉しいです。今作で唯一、今までの岡崎体育の痕跡がギリギリ残っているんじゃないですかね。アルバムの曲を並べたときにやっぱりちょっと真面目かなって感じてしまって何処かで自分らしさを入れたくなったんだと思います。

Q.この曲を聴き始めて30秒くらいで「一体何を聴いてるんだろう」って気持ちになりました。
岡崎体育:それ、タイトルでボケて曲で突っ込まないっていう僕の得意なやつなんです。所謂ボケ逃げですね(笑)。

Q.ボケ逃げとはニュアンスが違うかもしれないですけど「Okazaki Unreal Hypothesis 」もタイトルにOkazakiと付いてることから「ここでネタ曲がくるのかな」と思ったらめちゃくちゃかっこいいDUBナンバーで。
岡崎体育:DUBをやっている人って自分語りをする人が多い印象があって。そこに影響を受けてOkazakiって入れたくなっちゃいました。アルバムに中でも気に入っている曲ですね。

Q.しかし曲が本当にかっこいいです。ネタ曲無しのアルバムで勝負する理由が分かります。
岡崎体育:元々思い描いていたものとは違うんですけどね。よく漫画家さんが連載していく中で想定していた結末とは違う最終回になったって話を聞きますけど、僕もそれに近い感覚なんですよ。でも結果的にそれが成功に近いと思ったので、こういうアルバムが出来たことに凄く満足してますね。向かうゴール自体は変わってないけど向かい方が変わったんです。だからと言ってネタ曲をもうやらないなんてことは絶対にないし。

Q.大きな柱が2本出来たと。
岡崎体育:はい。ネタ曲で笑ってくれるのも凄く嬉しいし、ステージからみんなが笑っている姿を見るあの景色には本当に感謝しているので。だけど真面目な曲で評価されることも小学校からの夢なので、2本のわらじじゃないですけど、色んな側面の岡崎体育を見せていきたいですね。

Q.「龍」を聴いたときに、その両方を感じたんです。「面白い曲を歌う人」というイメージの奥にいる本当の岡崎体育というか、裸の岡崎体育だなと。
岡崎体育:めっちゃ嬉しい。龍って架空の生き物じゃないですか。そこに岡崎体育という芸名で活動している自分を当てはめたんです。さいたまスーパーアリーナでワンマンをやることをNHKのラジオで生放送で告知して、そのままホテルに帰って書いた曲が「龍」なんですけど、岡崎体育として活動する思いをこの曲から感じてもらえたら嬉しいです。

Q.さいたまスーパーアリーナの先には何か目標はありますか?
岡崎体育:当時は目標を終えたら作家やプロデューサーになりたいと思っていたんですけど、そこも想像していた未来とは少し変わってきまして。どうなるかは全く分からないですけど、やっぱり僕は岡崎体育をやりたいですね。

Photo by 安藤みゆ

 

リリース情報
岡崎体育
タイトル:SAITAMA

初回生産限定盤
【CD+DVD】SECL2370~2371
¥3,500(税込)

通常盤
【CD】SECL-2372
¥2,800(税込)

 

 

JINRO presents 岡崎体育ホールワンマンツアー「エキスパート」
2019年1月13日(日)愛知県 日本特殊陶業市民会館フォレストホール
2019年1月14日(月・祝)福岡県 福岡国際会議場 メインホール
2019年1月18日(金)大阪府 NHK大阪ホール
2019年1月25日(金)東京都 NHKホール

<さいたまスーパーアリーナ>ワンマン公演
2019年6月9日(日)さいたまスーパーアリーナ

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