2018年3月25日に名古屋クラブクアトロで開催された『ターコイズブルー』のレコ発ツアーファイナルをもって仲西新がバンドを離れ、新たに山田凌汰を迎え新体制となったLUCCI。メンバーチェンジを経て新たなスタートを切ったLUCCIが1年間ライブで培ってきたものを落とし込んだものがアルバム『明くる日のあとがき』だ。個性的だった仲西のギターを受け継ぎつつも新たなカラーをバンドに持ち寄った山田の功績も大きい。そして今作では三浦弦太の歌の進化もLUCCIというバンドを大きく前進させている。またLUCCIが得意とする恋愛ソングだけでなく今作には自身初の応援歌「涙のありか」が収録されているなどバンドとしても新たな挑戦をしており、常に進化を続けてきたLUCCIらしい作品となっている。新体制となったLUCCIの4人に話を訊いた。
Q.前作『ターコイズブルー』のツアーファイナルでギターの新くん(中西新)がバンドを脱退しましたが、最初に脱退の意向を伝えられたときはどう受け止めました?
長崎:絶望でした。
三浦:新くんから「話がある」って言われて。そんなこと言われたらまあ察するじゃないですか。それが学祭に呼ばれてライブする日だったんですけど。
長崎:学祭の学食でご飯を食べてるときに言われたんだけど、全然ご飯が美味しくなかったもんね。
三浦:前々から仕事が忙しくなってきたことは聞いていて。でもそれは全然悪いことじゃないし、むしろ良いことだと思っていたんですよ。僕らは公言している通り全員仕事をしているし。だけどライブが出来ないことも増えてきて。
長崎:新は好きなことをとことん詰めていくタイプなので仕事に夢中なんだろうなって。
Q.新くんのギターフレーズって物凄く個性があるじゃないですか。それだけじゃなくてメンバー同士の絆や仲の良さもLUCCIの魅力のひとつだったのでメンバーがバンドを離れることはかなり大きなことだったと思うのですが、解散の選択肢はなかった?
長崎:俺は続けたかったんですけど、もし弦太(三浦)が無理って言ったらLUCCIは終わるだろうなって思っていました。でも弦太もLUCCIは続けたいって言ってくれたので解散の選択肢はなくなりましたね。でも怜華のダメージも大きくて。
中神:寂しくて仕方なかったです。
長崎:全然受け入れてなかったよね。
中神:めっちゃ寂しくて。ツアーの車の中でも「辞めないで」ってずっと言ってました。本当に嫌だったから。
Q.確かに新くんの脱退は寂しかったですけど、LUCCIは次のアクションも早かったじゃないですか。すぐに企画を発表し、サポートメンバーとして山田くんもバンドに加わって。そこにバンドの未来が見えたんですよね。LUCCIはまだまだ続くなって。
三浦:もうやるしかないと思っていたので。
長崎:新が抜けることが決まってすぐに山田に連絡したんですよ。山田はR.A.Dにアコースティックユニットで出てくれていたのでギターが弾けることも知っていたし。
山田:まことさん(長崎)が誘ってくれて、長久手のモリコロパークでLUCCIの出るLayLine Festivalに会いに行ったんです。
長崎:緊張しながら差し入れでレッドブルを持ってきたよね(笑)。
山田:お酒だと飲めない人もいるかと思ったので(笑)。
三浦:あははは。真面目か(笑)。
長崎:それでスタジオに入ってみたら意外といけるなって。
Q.山田くんは元々LUCCIをどう見ていました?
山田:えっと、正直…。
長崎:嫌いだった?
山田:嫌いじゃないです(笑)。というか、実はあまり知らなくて。まことさんのやってるバンドっていう認識くらいだったんです。
Q.山田くんはどんな音楽が好きだったのですか?
山田:BUMP OF CHICKENが好きでした。ギターロックという意味では路線はLUCCIと一緒なんですけど。
長崎:でもやっていたバンドは違ったよね。ちょっとSPECIAL OTHERSみたいな印象があったし。
山田:アコギとエレキのユニットだったんですよ。でも趣味の延長でやってた感じだったのでちゃんとバンドがやりたいなって。
長崎:それで僕が山田から相談を受けてたんですよ。そのときはまだ新もLUCCIにいたし、別にバンドに誘うとかでもなく「本気でバンドをやりたかったら環境を変えてみるのもいいんじゃない?」って話をして。
山田:まことさんにそう言われて1週間後に辞表を出しました。
Q.え!?
山田:正社員として仕事していたんですけど、まことさんがそうアドバイスをくれたし仕事を辞めて何年かは勝負しようと思って。
長崎:結構大変な仕事だって言ってたからバンドをやり易い環境を作るのもありなんじゃない?って。そしたらその後、新がLUCCIを辞めることになって山田を誘ったんです。
Q.でもLUCCIは全員社会人なので結果的に辞める必要はなかったんじゃ(笑)。
長崎:あははは。
山田:でも気持ち的に辞めた方が良かったので大丈夫です(笑)。
Q.最初に4人で音を鳴らしたときのことは覚えていますか?
三浦:最初に合わせたのって「あっち向いてホイ」だっけ?
長崎:「ボーイフレンド」じゃない?
三浦:新くんが手癖プロだったのでもしかしたら違和感あるかなって思ったけど結構いい感触だったよね。
Q.新くんは手癖プロ顔癖プロでしたからね。
長崎:新かリュウシ(THE CAMP)かってくらい(笑)。
Q.山田くんはLUCCIに入ることでプレイ的に意識することはありましたか?
山田:最初はサポートだったので新さんのギターフレーズを追うことが大事だと思っていたから3人が演奏していて気持ち悪くないようなプレイを意識していたんですけど、正式に加入することになって新さんの面影を残すべきかは迷いましたね。
Q.今作では「ピエロ」の再録が収録されていますが、あの曲はイントロから新くんのギターの癖がめちゃくちゃ強い曲じゃないですか。そこを山田くんがどう弾くのかなって思っていたんですけど、絶妙なバランスで新くんのギターを受け継ぎながら山田くんのギターを弾いているなって。
長崎:やってることほぼ一緒だけどニュアンスが違うんですよね。
三浦:うん。色が違う。
Q.同じかめはめ波でも孫悟空と孫悟飯では撃つ人によって違うかめはめ波になりますからね。山田くんが弾くことで「ピエロ」が新しい「ピエロ」になったなと。
長崎:ちょっと大人になったよね。
三浦:そうだね。アダルトピエロ。
長崎:アダルトピエロだと意味合いが違ってこない?(一同笑)
Q.弦太くんの歌も変わりましたよね。良い意味でJ-POP感が出てきたというか。
三浦:ああ、そこはかなり意識してますね。どんどんJ-POP寄りになっていると思います。
Q.でもそれって弦太くんが避けていたことでもあって。「僕を呼んで」でも「大袈裟な共感を狙うJ-POP MUSIC」という言葉が出てきたり。
三浦:なんでJ-POPが嫌いだったかって、音楽的なことではなく、みんなが聴いているからだけだったんですよ。でもちゃんと聴くとやっぱり凄いんですよね。ロックよりJ-POPの方が絶対に難しいですから。あとは最近のロックシーンから見るとJ-POPのほうがマイノリティなんじゃないかって思うこともあって。
Q.J-POPのほうがサブカルチャーになりつつあると。
三浦:はい。こう言うとなんですけど、マイヘア(My Hair is Bad)っぽい熱量のバンドが増えてきて今やJ-POPのほうが少ない気がするんです。そんな中でLUCCIがどう在るべきか考えて辿り着いたのがポップに寄ることだったんです。だからって中身は簡単に染まらないぜって思いながら歌っているんですけど。
Q.LUCCIはカウンターでありたいということですよね。TRUST RECORDSに入ったときのLUCCIの立ち位置もそうであったように。「僕を呼んで」では「バイプレイヤーにもっと光を」とも歌っていますし。
三浦:そうなんですよね。やっぱりマイノリティなものに惹かれるとこは変わらないなと。その結果自分の歌がJ-POPに寄っていったのは自分でも面白いですけど。
Q.「涙のありか」も今までのLUCCIにはない歌詞だなと。
三浦:あれは自分らしくないことを書いてみようと思って。今まで歌ってこなかった臭いことを敢えて歌ってみょうと。僕らの歌って恋愛ソングが多いんですけど恋愛って歌にし易いんですよ。それが段々LUCCIの色になっていったんですけど、自分でも失恋やこじらせた恋愛を歌にするのは得意だと思っていて。今回のアルバムでもそういう得意分野から潰していって最後に書いたが恋愛をテーマにしていない「涙のありか」だったんです。これは所謂歌なんですけど。
Q.応援歌を書こうと思ったのは?
三浦:実家で家族が集まったときに子供のいる親戚から「恋だの愛だの書いてないで息子に応援歌を書いてよ。WANIMAみたいな」って言われて(笑)。
長崎:あははは。マジで?(笑)。
三浦:「そんなこと言われても!」って思いながら応援歌を書いてみたら思いの外良い曲になりました(笑)。
Q.そしてやっぱりアルバム最後を飾るのはLUCCIらしさが炸裂した恋愛ソング「ふたりぐらし」ですが、これまでと違うのは女性目線で書かれているかなと。
三浦:そこは新しい試みですね。女性目線で書いてみたいなってずっと思っていたんですよ。
長崎:この曲じゃ自分の中でも凄く大事な曲で。この曲が生まれたことはLUCCIの誇りだなって思えるくらい凄い曲が出来たと思う。こういうバラード曲をリード曲に出来るのも自信があるからこそですし。
Q.この曲は別れの曲だと思うのですが女性目線で書かれているとすると「ハイヒールが階段を叩き2時を知らせる足音も聞けなくなる」という歌詞は誰目線の歌詞なんですか?
三浦:これは実話なんですけど、深夜に彼女と部屋にいて寝るくらいの時間になるとアパートの階段からハイヒールの音が聴こえるんですよ。それで時計を見ると大体いつも夜中の2時くらいで…。
Q.ちょっと待って!それは怖い話ですか?
三浦:あははは。違います(笑)。その彼女と別れてもうこの音を一緒に聞くこともないなって話です(笑)。
Q.歌詞にもあるように「君なら幸せになれる」という別れの言葉ってズルいですよね。「もっと良い人に出会える」とかも一緒ですけど。
三浦:この世の摂理のせいにしてますからね。
Q.まことくんは女性を振るときに何て言うんですか?
長崎:なんで振る側なんですか(笑)。
三浦:またまた。
長崎:僕は振られるばっかですよ。
三浦:「君なら幸せになれるよ」とか言ってるんでしょ。(一同笑)
Q.怜華ちゃん(中神)は女性目線でこの曲をどう捉えてますか?
中神:結構合ってるなって思う。弦太くんとはよく恋話をするんだけど、そういうのもあって女の子の気持ちを分かってるんだろうなって。
三浦:そういう話をすることで恋愛観は女性的な感覚も少し持っているかもしれないですね。
Q.「クッション」も女性心をくすぐりますよね。「尻に敷かれても最高のクッションになれる」なんてもう、めちゃくちゃキュンとしちゃう。
三浦:あれはね、言ってやったなって思います(笑)。
Q.リアリティがあるんですよ。
三浦:これは僕の恋愛観なんですけど、尻に敷かれたほうが上手くいくと思っているんですよね。あと僕はコンプレックスの塊なので「なんで僕なんだろう」っていつも思っているんですよ。そんな僕を選んでくれることが有難いし嬉しいなって。
Q.「世界中誰にも真似できない君の隣でずっと歌っていたい」なんてヴォーカルだから歌える必殺技も飛び出していて。「君の隣でドラムを叩きたい」って言われても「うるさい!」ってなりますから。
長崎:あははは。ヴォーカルってズルいですよね(笑)。
Q.そして「灯火」ではLUCCIの原動力にある劣等感が歌われていて。これは「FROG」で歌われていたことの延長でもあるなと。
三浦:学生時代の自分がフラッシュバックしますね。
Q.コンプレックスや劣等感は燃料になりますからね。僕はLUCCIが大きなステージで歌う姿を見るたびに「FROG」が頭をよぎるんですよ。その感覚を「灯火」からも感じました。
三浦:ミニアルバム4枚目にしてまだコンプレックスを歌ってるっていう(笑)。でも本当にそれがモチベーションになっているのでこうやって今も歌っているんだと思いますね。
Q.「進路希望を空欄で出す勇気すらない」という歌詞にはめちゃくちゃ共感しました。
三浦:空欄で出す人が羨ましかったんですよ。逆にしっかり夢を書く人も羨ましかった。僕はどっちにも振り切れない中途半端な人間なので。何て書いたらそつなくこなせるかを考えちゃうような学生だったし。小学生の頃に書いた夢が「郵便局員」ですからね。
Q.郵便局員さんに憧れる気持ちも分かりますし、素晴らしい仕事ですけどね。でもサッカー選手とか歌手とかじゃなく郵便局員は現実的ですね。
三浦:夢のない男なんですよ(笑)。普通の生活をすることが夢っていう。だけど心の中で燃えているものはあるんですけど。
Q.逆に夢があるなって思いますけどね。普通の生活を望むことだって素敵なことだし、その中でLUCCIは大きなフェスに出たり、全国に仲間が出来たり、普通の生活では出来ないこともやっている。その火を消さない為に山田くんも加わった訳で。
三浦:そうやって薪をくべ続けているのかもしれないですね。
山田:LUCCIには新さんの面影が強くあると思うんですけど、そこは受け継ぎつつ自分のカラーも出して新しいLUCCIを作っていきたいです。
三浦:新色と山田色が上手く混ざっているのが今のLUCCIの武器だと思うんですよ。新しいLUCCIで作った新しいアルバム、超自信作なので聴いて欲しいです。
明くる日のあとがき
4月3日発売
RCTR-1078
1600円(+税)