tricotが3rd フルアルバム『3』より約 2 年振りとなる全国流通作品『リピート』を完成させた。兼ねてからサポートを務めていた吉田雄介が正式メンバーとして加入後初のリリースとなる今作は、tricotの新たな夜明けともいえる画期的な作品となっている。曲間の隔たりを無くすことでまるで組曲のように構築された今作はその名が表すように何度もリピートすることで「作品に終わりがなくなる」という側面も持っている。そう、このアルバムは何度も始まるのだ。飛び込んでくる音と手法に唸りながらも着地点は極上のポップな部分も素晴らしい。これはまさに大発明である。ジャパニーズロックの価値観をひっくり返し続けるtricotの中嶋イッキュウに話を訊いた。
Q.『3』から約2年振りのリリースということですが。
イッキュウ:もう2年も経ったんですね。2年間、何してたかなあ(笑)。
Q.海外での活動が増えた気がしますけど。
イッキュウ:確かに海外でのライブは増えましたね。それまでも「よく海外に行ってるね」って言われることはあったけど、実際はそこまで頻繁に行ってた感覚はなくて。でも2018年は本当に行きまくったなって自分でも思います。年始にアジアツアーがあって、5月6月にUSツアー、秋にはUKツアーがあったので、1年中海外を回っていたような気がしますね。内容も濃いものばかりで、秋のUKツアーでは、イギリスのフェスのヘッドライナーで呼んでもらったり、大阪のFLAKE RECORDSのDAWAさんとメンバーの5人だけで行ったり、凄く楽しかったですね。
Q.吉田さん(吉田雄介)が加入したのはいつ頃ですか?
イッキュウ:『3』のツアーファイナルで発表したので1年前くらいですね。吉田さんには『3』でもサポートで叩いてもらっていたんですけど、その頃から気持ちは正式メンバーのつもりでやっていました。前にサポートしてもらっていた美代さん(山口美代子:DETROITSEVEN)から吉田さんに切り替わる時点で既にそう思っていましたね。
Q.吉田さんの正式加入もですが、今作『リピート』を聴いてtricotの新章の始まりを感じました。ひとつの作品としてのトータルコンセプトが物凄く作り込まれているのもそう感じた要因なのかなと思うのですが。
イッキュウ:これまではテーマとか考えないで、作りたい曲を作ってそれをパッケージする作り方だったんですけど、『リピート』は最初にアルバムのコンセプトを決めてから作ったんですよ。その中で今作はジャンルで縛るのではなく曲を全て繋ぐことを決まり事として作ることにしたんです。
Q.だからアルバム全体で1曲のように感じるんですね。「リフレクション」から「悪口」の繋ぎとか鳥肌が立ちました。
イッキュウ:あそこが一番繋がってる感じがありますよね。「good morning」から「大発明」の流れとかはドラムが繋がっているだけでキーとかは関係ないけど「リフレクション」から「悪口」の流れは曲が段々次の曲に向かっていく感じが自分でも「おお!」って思います。
Q.曲は収録順に作っていったのですか?
イッキュウ:それが違うんですよ。「good morning」で始まって「悪口」で終わる流れの中で、最初に出来た曲は実は「BUTTER」なんです。特に何かを意図して作ったわけではなかったけど無意識でひとつの物語が出来上がったのは面白いなって思います。
Q.どの曲からスタートしても物語をループ出来るのも面白いですよね。そのまま「悪口」から「good morning」にリピートすることで終わらないアルバムになるなと。
イッキュウ:その日の気分でどの曲から聴いてもらっても面白いだろうし、そうやってリピートしてくれたらとても嬉しいですね。アルバムも声から始まって声で終わるって決めていた訳じゃないですし。
Q.あ、そうなんですね。そこは決めていたんだと思いました。しかし「good morning」はいきなり凄いですよね。声の重なり方がとんでもないなと。
イッキュウ:あれだけ私が勝手に作った曲なんですけど、声ばっかり重ねる曲が作りたいなと思って携帯のガレージバンドで作りました。『KABUKU EP』の1曲目の「Nichijo_Seikatsu」も全く同じ作り方をしているんですけど、今回はバラードじゃなくてちょっと笑ってしまう感じの変な曲を作りたいなって。
Q.ど頭から「へいやーあー」ですからね。一青窈以来の衝撃ですよ。
イッキュウ:あははは。それを面白がって許してくれたメンバーも心が広いなって思いました(笑)。
Q.リズムや空気感は民族音楽っぽさもあって。
イッキュウ:そこは結構意識しましたね。吉田さんも色んな国の音楽に詳しいので拘っていました。デモの段階ではドラムを入れてたんですけど、パーカッションで仕上げたのも民族音楽っぽくなった要因かと思いますね。
Q.「good morning」の歌詞で「気づかないふりを繰り返し」という言葉が出てきますが、これは「ブームに乗って」の「聞こえないふりを繰り返して」とリンクしていますよね。
イッキュウ:そうなんですよ。普通だったら前に使った言葉や言い回しは外すと思うんですけど、そういう遊びも好きなので要所要所に入れています。それもリピートという事に関連付けてます。
Q.「よそいき」ともリンクする部分があるように思いました。
イッキュウ:歌詞は近いかもしれないですね。夜明け感というか。どっちも前夜のことを歌っているので。
Q.「good morning」から「大発明」に繋がった瞬間に夜が明けますよね。「大発明」はその名の通り日本の音楽シーンをひっくり返す大発明なんじゃないかなって。
イッキュウ:ありがとうございます。嬉しい。
Q.まず曲と歌の関係性が大発明だなと。全く別のラインを走っているふたつのものが奇跡的なバランスでひとつになっているのが凄すぎます。
イッキュウ:でも意外とメロディを付けるのは難しくなかったんですよ。
Q.それが凄い。曲だけ聴いたらどうやってこの歌が乗ったんだろうって思いましたから。
イッキュウ:曲だけ聴いたら複雑に聴こえるかもしれないし、たぶんもっとマニアックな音楽を知っている人がメロディを付けたらきっと複雑なものになると思うんですよ。だけど、私からするとメンバーのポップ性が楽曲から滲み出てるなって感じるんです。私はそこに耳が行きがちなのでこういうメロディを乗せることが出来るんじゃないかなって思いますね。
Q.なるほど。あとはバックボーンも大きいかもしれませんね。良い意味で大衆的な音楽要素も含んでいると思うので。
イッキュウ:それはありますね。メンバーも私もJ-POPから多大な影響を受けているので。
Q.「大発明」のサビ前のベースラインとか、サビ終わりのスネアの音とか、マイク・キンセラのようなギターフレーズとか、そういう細かい部分から音楽愛を物凄く感じるのですが、以前よりも素材勝負な感じが凄くするなと思いました。特に「BUTTER」とかは音数が少ない分、個性でしっかり勝負しているなと。
イッキュウ:たぶんみんなが思っているtricotってガチャガチャ激しい印象が強いと思うんですけど、今回はメンバーそれぞれの引き出しも、聴く音楽のジャンルの幅も広がっていて、より音楽的に作り込めた気がします。
Q.感覚的なイメージですけど、ザ・ビートルズの『ホワイトアルバム』っぽい印象も感じました。
イッキュウ:それ、マネージャーにも言われました。これまでビートルズっぽいって言われたことはなかったんですけど、大ファンなので嬉しいです。
Q.吉田さんのドラムとか。
イッキュウ:そうなんですよ。吉田さん、リンゴ・スターのドラムを意識したって言っていたから喜ぶと思います(笑)。
Q.手法としての中期ビートルズ感があるんですよね。音の重ね方とか。今作はギターもかなり重ねていますよね。
イッキュウ:めちゃくちゃ重ねていますね。ライブでもリアルタイムでルーパーを使って重ねているんですけど、それも『爆裂トリコさん』の「bitter」以来のことで。「bitter」以降は私がギターを弾いていたんですけど最近のライブでは「BUTTER」とかはハンドマイクで歌って、重ねるところは先輩(キダ モティフォ)が重ねているので、今までやってこなかったこともやっていて、みんな前のめりですね。
Q.あとピンポイントなんですけど、「BUTTER」の「次はいつ会えるかなんて逸話」の部分の歌い方がめちゃくちゃかっこいいです。日本語だけど日本語じゃない語感というか。
イッキュウ:私、元々活舌が良くなくて、バンドや歌を歌っていく中でそこを言われることも多くて直して行ってたんですけど、そこを超えて言葉でもっと遊べるようになったんだと思います。
Q.「リフレクション」の言葉のはめ方も面白いですよね。細かい話をしてもいいですか?
イッキュウ:聞きたい。
Q.「君を超えてしまう 君を超えてしまうよ 君を超えてしまう 君を超えてしまう」というパートが2回目では「スピード上げて 君を超えてしまう 君を超えてしまうよ 君を超えてしまう」と、「君を超えてしまうよ」の置かれている場所が違うんですよ。だけど歌ってみると2回目は絶対にそこでしかないんですよね。
イッキュウ:凄い(笑)。普通は揃えると思うんですよ。でも2回目は3行目に「君を超えてしまうよ」を入れたほうが気持ち良いんです。
Q.「それは関係のない関係 君は最低じゃない最低」も2回目は「それは 君は」と空白があるじゃないですか。そこは完全に歌わせにきてるなって。
イッキュウ:あははは。面白い。あの空白も気持ち良いんですよね。ぜひ歌ってください(笑)。
Q.そしてアルバムのラストを飾る「悪口」ですが、この曲はかなりエモーショナルだなと。
イッキュウ:エモに寄っていますよね。
Q.ハードコアっぽさも感じます。
イッキュウ:それは私も曲が出来ていく過程で感じました。曲が展開していく中で、ああいうごつい感じに切り替わるのはびっくりしましたね。
Q.アルバム最後の大展開ですよね。そこからまた「good morning」とリピートすることでこのアルバムは2回始まる訳ですが。
イッキュウ:アルバム通して発見や驚きがあるから何回もリピートしたくなるんですよね。1周では終われないアルバムになったと思います。
Q.既に何曲かライブでも披露していますが、曲順通りにライブで再現して欲しいです。
イッキュウ:それは本当にやってみたいです。「BUTTER」と「大発明」はもうライブでやっているんですけど、セットリストでは離しても成立しているので、ライブで聴いてくれた人がCDを聴いたら「繋がってる!」って驚いてくれるんじゃないかな。でも本当に『リピート』をライブで再現するのはやってみたいです。あ、でも次が何の曲がくるか、先は読めちゃいますね(笑)。
リリース情報
タイトル:リピート
【CD】
品番BKRT-013
価格:1500円(+税)
【CD+tricotオリジナルイヤホン】
生産限定BOX/タワーレコード限定
価格:9000円+税
品番:BKRT-014
2019年3月20日発売
発売元:BAKURETSU RECORDS / JAPAN MUSIC SYSTEM
販売元:JAPAN MUSIC SYSTEM