JONNY 佐藤美生-三田村邦彦とわたし-
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-September 2011

もう世に出ることがないであろう、ショートショートの原稿を発見した。
折角だし、ここに載せてしまえ。
ちなみにこれ、nothingmanのbeautiful worldにインスピレーションを受けて書いたやつ。
文字数の制限があったので、後半は歌詞をまる写しになってしまいました。すまんねぇ。
文章での作品をどこかに掲載するのは初めてだ・・・恥ずかしいね。書いた時は結構気に入っていたんだけどな。今読むと、中二病としか思えないけれど・・・

まぁ、折角なので。

 

『ライト・マイ・ライフ』

 地下鉄東山線は、今日もただただ事務的に、東へ東へとわたしを運ぶ。
 今池駅を過ぎたあたりから乗客はまばらになり、不規則に配置された会社帰りのサラリーマンやOLが、皆一様に無表情のまま空の一点をぼんやり見つめ、一定のリズムに任せて身体を揺らしている。

 確か彼は、今日もライブだと言っていた。腕時計をそっと見やると、午後9時を10分ほど回ったところだった。
もう彼の出番は終わったのだろうか。目を閉じ、ギャンギャンに歪んだギターをかき鳴らす彼の姿を想像してみる。
飛行機が飛び立つ瞬間に似た轟音に合わせて、淡々と機械染みたリズムを刻み続けるドラム。
彼がやる音楽が何と言う種類のものなのか、わたしにはわからない。耳に残るようなメロディーもなければ、共感を誘うような歌詞もない。ただ世界の終末を連想させるような爆音のノイズと、無愛想にループするリズムパターン。
それでも、街中に垂れ流された執拗に共感を求めてくる流行歌よりも、彼の作り上げる音楽の方が、わたしは好きだ。音楽に心を開くのは、聴き手の勝手だろう。

 彼には、この列車が織り成す一定の機械音も、音楽に聴こえるのだろうか。
今、横に彼がいて、静かにアンプの電源を入れるところを想像してみる。わたしに優しく微笑みかけ、彼がエフェクターのスイッチを踏む。アンプから直ちに耳を劈くような高音のフィードバックが飛び出す。すると彼の微笑みは、恍惚とした安堵の表情へと見る見る変化する。
ギターとじゃれ合い転げまわる彼を見て、わたしは一人、取り残されたような気分になる。また、おいていかれた。

 何に不満があるわけでもない。悩んでいるわけでもない。ただ時折「おいていかれた」という感覚に襲われることがある。
わたしを「おいていく」のは、彼だけではない。相変わらず無表情で空を見つめるサラリーマンも、事務的に人を揺らし続ける地下鉄も、わたし以外の存在全てが、どこか違う次元の出来事のように感じてしまうのだ。
いや、違う次元にいってしまうのは、わたしの方なのかもしれない。そうだとしても、やはり「おいていかれた」という表現が、しっくりくる。

 わたしの持つ「感情」は、本当に「感情」と呼ばれるものなのであろうか。人が何を感じ、考えているのか、当然他人であるわたしにはわからない。わからないものを、何故疑いもなく同じものとして認識することができるのだろう。
もしかしたら、わたしには感情がないかもしれない。それでも他人は、ありもしないわたしの感情を、わたしそのものと同じように扱う。わたしの話をしているようで、わたしとは全く別の存在について話をしている。
無表情だからと言って、無感情だと言うわけではないのだよ。君もそうだろう、君も何かを感じ、考えているのだろう。同じだよ、皆同じなんだよ。
ノイズにディレイがかかる。「本当にそれは音楽なのかい」彼がわたしに尋ねる。
「音楽を生み出しているのは、わたしではないよ」わたしが答える。
「それは君が感じたことなのかい」彼がわたしに尋ねる。
「考えたことかもしれないね」もはやその声が誰のものなのか、わからない。
目で見ていたものは、実は耳で聞いていたことなのかもしれない。
これは暗闇なのかしら、それとも、空白なのかしら。わたしは、何故ここにいるの。ここは、広すぎるよ。

 ガタン、と大きく車体が揺れ、その衝撃で目を開いた。目を開いたことで、今まで自分が目を閉じていたのだと気づいた。寝ていたのだろうか。それは、起きていると実感できるまでは気づけないのだろうけれど。
地下鉄は一社駅を過ぎ、高架路線の区間に入っていた。窓ガラスの向こうには、名東区のささやかな夜景が広がっていた。
光。光の数だけ、人が明かりを必要としている。
何だか少し疲れたな、と思い落とした視線の先に、窓枠に書かれた小さな落書きを見つけた。

『HOW MANY PEOPLE UNDERSTAND ME?』

 これは、誰かの感情。

『ここから見える街は綺麗だよ』

同じ様にわたしは小さく書き足した。

 

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