あいくれ

東京都立川が誇る女性ヴォーカルロックバンドあいくれが今年3月にリリースした前作『アンシャンテの手紙』に続き2ndミニアルバム『音楽家の一日』を自主レーベル「homachiame records」を設立しリリースする。『アンシャンテの手紙』リリース以降、約半年間で60本以上のライブを経験、さらにCOMIN’KOBEやNUMBER SHOTといったフェスにも立て続けに出演を果たすなどネクストブレイクの呼び声も高い彼ら。バンド自身がテーマに「ネクストレベル」を掲げ制作されたアルバム『音楽家の一日』は時系列で聴くことでよりその世界観を堪能することが出来るだろう。朝が夜になり夜が朝になる。その繰り返しの毎日が何を意味するのか。最高傑作を完成させたばかりのメンバーに話を訊く。

 

Q.『アンシャンテの手紙』のリリースから僅か8ヶ月でのリリースとなりますがこの期間はひたすらライブをしていた印象が強いのですが。
ゆきみ:怒涛でしたね。半年くらいで60本以上ライブをしたので本当に濃い期間になったと思います。元々ライブは多いほうだと思いますけど、それでも月に16本とかライブをしたのは初めてでした。でもそのおかげでバンドが磨かれた気はしますね。
こめたに:フィジカルが強くなったよね。

 

Q.このスケジュールの中でアルバムの制作をしていたことに驚きです。アルバムの青写真はあったのですか?
こめたに:今回のアルバムは先にテーマがあった訳ではなくて、出来上がった曲を並べたらたまたまテーマが朝、昼、夜みたいな時間を感じさせるものだったんです。そこで初めてテーマが定まったんですよ。

Q.確かにアルバムを通して1日を追っているような感覚になります。CDをリピートすることで新しい朝が来るようなイメージも沸きますし。
ゆきみ:そうなんですよね。でも特に製作段階ではテーマに沿って作っていた訳じゃないんですよ。1曲1曲それぞれ作ったら偶然こういう作品になったっていう。あいくれとして活動する中で、一人の人間として日常で感じたことや人生観を歌詞にしていった結果の歌詞なので。

Q.歌詞にもアレンジにもみんなの心情は反映されていますよね。「グッドバイ」とかそのタイトルから連想するイメージとは裏腹に前向きなメッセージも込められているなって思いました。
ゆきみ:バイバイだけど後ろ向きじゃないっていう。忘れたい過去や経験とグッドバイして前に進む曲にしたかったので、そこを感じてもらえたなら嬉しいです。

Q.「黄色い朝を束ねよう」で歌っている「黄色い朝」とはどんな朝をイメージしているのですか?
ゆきみ:朝が来ることが怖いときってあるじゃないですか。私も強い人間じゃないし、そう思っている人も沢山いると思うんです。でも巡ってくる朝が希望の朝だったとしたらきっと黄色いんだろうなってイメージが私の中であって。あとこの曲で私が歌いたいことは、苦しい思いや哀しい思いをしている人にもし私の歌が届いたら希望を持ってもらえるかなって思うことがあって。そういう届けたい思いが「ラブソング」という言葉に込められているんです。

Q.この曲からは優しさを感じるんですよね。コーラスとか聖母マリア様のような温かさもあって。
小唄:あははは。

Q.イントロのギターの朝っぽい感じも良いなと。
ゆきみ:朝っぽいですよね。
小唄:この曲はトイレから出てきたこめたにが「思いついたことがあるから何か明るいコードを弾いてくれ!」って言ってきて。
こめたに:そうそう。だから仮タイトルは「トイレ」だった(笑)。でもそこから曲が出来上がるまでは早かったよね。
ゆきみ:それだけ自分達の中でイメージがしっかりあった曲なんだと思います。

Q.「黄色い朝を束ねよう」とは毛色の違う「と或るここ」は時間軸で言えば夜中っぽいですけど、この曲は再生して5秒で「好き!」って思いました。
こめたに:そう言ってくれると思っていました(笑)。

Q.イントロから最高です。まるでenvyのようなエモーショナルを感じます。
こめたに:なんか同じフレーズを前回のインタビューでも聞いた気がするんですけど(笑)。
小唄:レコーディングしながら「2YOUのインタビューできっとそう言ってくれるだろうな」って思っていましたから(笑)。

Q.展開も面白いですよね。短い歌詞と音数の少ないシンプルな構成から始まり曲が進むに連れ気付いたら音がどんどん構築されている展開に興奮しました。
こめたに:今回、ギターとドラムにテックさんが付いてくれて。それがかなりプラスに作用していると思いますね。
小唄:テックさんの力は大きいですね。いるといないとじゃ全然違う。自分の頭の中のイメージをそのまま音にしてくれるんですよ。例えば「もうちょっとグチャグチャにしてください」って抽象的なイメージで伝えたら本当にイメージ通りの音になるんですよ。それが本当に凄くて。
こめたに:今回は下を支えるドラムにしたかったので普段やらないチューニングをしているんですけど、それも僕だけじゃ出来なかったと思いますね。

Q.「と或るここ」の歌詞を追いかけるようなギターがめちゃくちゃエモいですよね。初期あいくれっぽさもあって。
ゆきみ:実は今回のアルバムでこの曲だけかなり前に作った曲なんですよ。
こめたに:3年前くらいですね。
ゆきみ:今作に収録するにあたって、昔のあいくれの曲を今のあいくれでアレンジしたんです。そういう意味でも一番あいくれらしさが出ているかも。

Q.「ブレーメンへ行く」は歌詞が本当に素晴らしい。ミドルテンポでしっかり歌う説得力もあるなと。
ゆきみ:この歌詞、良いですよね!
こめたに:あいくれの楽曲ってバラードで歌い上げるかバチコーンって決めるかのどっちかなので、このテンポの曲はあいくれでは初挑戦かも。

Q.人生って色んな選択の連続だと思うんですけど、その中であいくれが何を選んでどんな道に進むか、そんな決意表明のような曲だと思いました。
ゆきみ:まさにその通りで、この曲は人生について考えて書いたんですけど、あいくれを8年やってきて、その中で辞めていった仲間もいるし脱退するメンバーもいて、その都度私達も考えて、それでも前に進むことを選んできたんです。続けることって何も変わらないことかもしれないけど「続ける」という選択をしていると思っていて。そういう決意を持って前に進むことを書いた曲ですね。

Q.この曲はグリム童話からインスパイアされていると思うのですが、こういう手法はあいくれは得意ですよね。バンドの気持ちとテーマではどちらが先に浮かぶのですか?
ゆきみ:どっちも自分の中にあるので同時に降ってくるんですよ。この曲で言えば「続ける決意」と「ブレーメン」が同時に頭に浮んでそれを同時に曲に落とし込むんです。

Q.それは凄い。つまり辞書を引いて考えるのではなく自身の引き出しを開いたところにあるものが自然と取り出せるようになっていると。
ゆきみ:そんな感じですね。「ブレーメンへ行く」は自分でも本当に良い歌詞が出来たと思ったので「めっちゃ良い歌詞が出来た!」ってすぐメンバーに見せました(笑)。
こめたに:僕も好きですね。この曲をいつか武道館でやったらかっこいいなって想像しています。

Q.「ブレーメン」を「ブドーカン」に変えて歌ったりして。
ゆきみ:ああ、でも「ブレーメン」というのは比喩であって、この曲が出来たときにいつか武道館でやれたらいいなって話はメンバーでしたんですよ。

Q.この曲はサビ後の間奏のブレイクがとにかく最高です。
ゆきみ:そこは完全に狙いましたね。

Q.小唄君とこめたに君のバックボーンがしっかりあいくれに落とし込まれているなって思いました。
小唄:そうなんですよね。今作では新しいことに挑戦しているからこそ、こういうルーツにあるようなものもエッセンスとして取り入れたいなって。
こめたに:バレないように入れてるつもりだったけどバレましたね(笑)。

Q.新しさといえば「ブルーモーメント」の良い意味でのいなたさは斬新でしたね。
ゆきみ:この曲はまさに「いなたさ」がキーワードで。良い意味でダサいんですよね。
こめたに:歌入れするときも「かっこよく歌わないで!」って言ったり。
ゆきみ:「美しく歌わないで!」って言われましたから(笑)。

Q.この曲はギターもかなりブルージーですよね。
ゆきみ:そこが一番ポイントだと思っています。歌入れするときにどうやってこのいなたい楽曲に歌を乗せようか悩みましたから。でもあのギター、本当に良いですよね。

Q.あのブルージーなギターはどんなアーティストから影響を受けているのですか?
小唄:これは完全にエレファントカシマシですね。こういう曲でこういうフレーズのギターを弾かないとなって。「ブルーモーメント」は年齢を重ねると共に名曲になっていくと思うんですよ。大人になってやったら絶対にかっこいいと思う。

Q.メンバーが40代になった頃にあのギターがめちゃくちゃハマる気がします。
こめたに:きっと味しかないですね。
ゆきみ:楽しみですね。一緒に年を取っていきたい曲です。

Q.切ない失恋ソングにいなたいギターが沁みます。
ゆきみ:分かります。ここまでの失恋ソングはないってくらいのラブソングになったと思いますね。「思い出が横たわる 毎日が埋もれていく」という歌詞があるんですけど、失恋したことで前に進めない様子やそんな毎日をアニミズム的な意味で生き物に表現出来たら面白いなって思ったので細かい描写まで悩んで書いたんですよ。普段は歌詞をサッと書き上げるタイプなんですけどかなり表現に悩みましたね。

Q.「ブルーモーメント」から「グッドバイ」の流れは本当に秀逸ですよね。「グッドバイ」が「ブルーモーメント」に対するアンサーというか。前に進めない状態からそれでも前に進まないといけないって自分に言い聞かせる曲だと思うんですよね。そして夜が明けて朝が来るっていう。このアルバムを聴けば聴くほど毎日が更新されて、その繰り返しの日々が前に進む強さをくれるんじゃないかって。
ゆきみ:凄い。こうやってインタビューしてもらうと自分達でも気付かなかった発見があるから面白いですね。そういう風に聴いてもらえると凄く嬉しいです。

Q.今回のアルバムって聴く人によって色んな解釈が出来ると思うんですよ。色んなシチュエーションにも置き換えられる。音楽って面白いですよね。
ゆきみ:本当に。どう受け取ってもらっても全部正解だと思うのでアルバムを聴いて自由に感じてもらえたら嬉しいです。

あいくれ
タイトル:音楽家の一日 DDCZ-2180
¥1,500(+税) 2017年11月22日発売

メンバー
ゆきみ(Vo)
小唄(Gt)
こめたに(Dr)

http://aikure.com/