田中聖が完成させたソロ名義では初となるアルバム『Easter』はまるで田中聖そのものである。2017年大晦日、柏パルーザでの復帰ライブで彼は「マイナスからのスタート」だとステージで語っていた。田中聖は2017年5月に大麻取締法違反で逮捕され、そのショッキングなニュースは日本中を駆け巡った。その後不起訴処分となるも当時田中が所属していたバンドは同年9月にバンドは夢半ばで解散することになった。そしてその年の大晦日に復帰した彼は「田中聖」の名前での活動をスタートしたのだった。そして2019年1月にリリースされた『Easter』は田中が自分自身と向き合うことで辿り着いた彼の分身のような作品となった。失敗も現実も夢も希望も過去も未来も、全部背負って前に進むことを覚悟した田中聖に話を訊く。
Q.2017年の大晦日に行われた復帰ライブ当日、聖さんはどんな思いでした?
田中:正直、不安が大きかったです。勿論楽しみな部分もありましたけど、本当にお客さんが来てくれるかっていう不安もあったし、客席から罵声が飛んでもおかしくない中でのスタートだと思っていたので、幕が上がるまで本当に不安でした。だけど集まってくれたお客さんの顔を見たら、泣いてくれている人がいたりいつも以上に大きな声援をくれる人がいたり、みんなの気持ちが本当に真っ直ぐ伝わってきて心から有難いと思いました。
Q.あの日、「マイナスからのスタート」という言葉も出ていましたが。
田中:自分が起こしてしまったことは自業自得ですし、それまでもずっとゼロからのスタートのつもりでやっていたんですけど、マイナスから這い上がっていくつもりでやらなきゃいけないなって。そんな僕でも応援してくれる人がいることが本当に嬉しかったし、初めてステージ上で泣きそうになりました。言葉が詰まるくらいに感情が込み上げてきたのを覚えています。
Q.復帰後はひたすらライブ活動をしていた印象があります。
田中:今の自分だからこそ伝えられることや今の自分にしか伝えられないことがあると思っていて。僕は音楽に救われた部分が大きかったので、同じように何か迷っている人がいるんだったら、自分が音楽に力を貰った分、誰かに自分の音楽で力をあげたい。それで全国各地でライブをさせてもらっていました。そうやって日々ライブを続けていく中でファンの人の支えに救われた部分も大きかったですし、ソロ名義になったことや過去の失敗があったからこそ周りの助けが身に沁みました。
Q.田中聖という名前が世間に知られているからこそソロ名義で再始動することはある意味決意が必要だったんじゃないですか?事件のことも含め、田中聖としての存在を知られている中で再スタートを切ることは並大抵の覚悟では出来ないと思うんですよ。
田中:田中聖として再スタートする以上、確実に背負わなきゃいけないものはあります。なにより、もう音楽を辞めなきゃいけないとも思ったし、歌えなくなることも頭をよぎったんですよ。だけど自分を信じてくれている人、待ってくれている人、背中を押してくれる人が沢山いて、そういう人達のお陰で作ったのがこのアルバムなので、生半可な気持ちではやれないですよね。
Q.だからこそ丸裸なアルバムになったと。
田中:そうですね。去年1年間の心情がそのまま歌詞にも表れているのでかなり丸裸だと思います。
Q.丸裸だからこそ歌えるようになった歌もあると思うんですよ。例えば「雨津々」のようなラブソングはこれまでじゃ書けなかったと思います。
田中:「雨津々」は完全に今の自分だからこそ歌えるかっこつけてないラブソングですね。僕の女々しい部分もこの曲では表せたと思っていて。そういう男の女々しさも歌ってみたかったんですよ。
Q.こういう面も出せるようになったのは今の聖さんだからこそですよね。
田中:『Easter』は全体的に今だからこそ歌える歌が多いと思います。今だからこそ届かすことが出来るというか。
Q.アルバム1曲目を飾る「The Canvas」は真っ白なキャンバスが真っ黒になったとしても何度だって塗り直せばいいと力強く歌う再出発の曲だと思うのですが、今の聖さんが過去を歌った「The Canvas」でアルバムが始まり、未来を歌った「Easter」でアルバムが締まるのが作品の流れとして完璧だなと。
田中:そこ!このアルバムは曲順も凄く拘ったんですよ。最初はアルバムタイトルでもある「Easter」を1曲目にしようと思ったんですけど、「The Canvas」はまさに過去から今に歌ってる曲だし「Easter」は今から未来に向けて歌っているので、過去を背負った上で未来に向かっていこうという気持ちも込めているんです。
Q.再出発の狼煙が上がった直後に「RAPGAME」が来るのは反則です。無条件で興奮します。
田中:「RAPGAME」は活動出来ていなかった時期に最初に書いた曲なんですよ。その期間に自分の武器が何なのか改めて考えて出来たのがこの曲で。言葉遊びも含め自分の出来る武器を最大限に使ってみようと思ったんです。
Q.聖さんがこれまでやってきたことに対して自身で向き合った上で音楽を楽しんでいるのが本当に素晴らしいなと。しかもこの曲では「J da O da K da E da R」という昔からのファンには溜まらない言葉も出て来て。
田中:これまで敢えて使ってなかったんですけど、それも含めてきちんと過去に向き合おうと思ったんです。逃げちゃいけないなって。これまでの自分のやってきたことを背負った上で先に進んでいきたい。今はそう思っています。
Q.そうやって過去の自分と向き合う様を「ヒトリースタイルダンジョン」では面白い手法で表現しているなと。
田中:昔の自分と今の自分がラップバトルしているという(笑)。昔の自分とこういう形で対峙したことで気付いたのは、結局根本は何も変わってなかったんだなってことで。見え方だったりいる場所だったり、インディーだったりメジャーだったり、オーバーだったりアンダーだったり、そんなの関係なく、自分はラップが好きで歌が好き出てライブが好きなのは何も変わっていないことを再確認出来たと思います。
Q.オーバーとかアンダーとかじゃなくて本物か本物じゃないかですよね。
田中:本当に。それは昔からずっと思っています。どれだけリアルを追求して表現出来るかだけを考えてきたし、今も考えていることですね。
Q.リアリティと言えば「W.T.F」も凄い。スキャンダラスな意味も含めて田中聖という名前の大きさは聖さんが一番知っていると思うんですけど、そこに対して好奇な目で見てくる人もいると思うんですよ。
田中:めちゃくちゃいますね。
Q.逆に信頼出来る仲間も沢山いる訳で。
田中:僕に対して悪いイメージがあることは仕方ないことだと思っているし、そこは自分の蒔いた種でもあるので背負っていかないといけないんですけど、その中でそんな自分を愛してくれる人がいることもめちゃくちゃ感じているので恩返ししたいんですよ。僕は世間的に見たら人生を失敗していると思われているだろうし、確かに大きな失敗もしてるんですけど、指を指されても、笑われても、ステージで夢を追い続けることで誰かの背中を押すかもしれないと思っていて。それが僕がステージに立つ意味なのかもなと。
Q.それこそ「The Canvas」じゃないですけど、何度夢を見たって良い訳で。
田中:願えば叶う訳じゃないかもしれないけど、そもそも追いかけないと何も叶わないですからね。勿論シビアに見る部分はシビアに見つつ、夢はずっと追っていたいです。大人になると「夢ばっかり見て」って言われることがあるじゃないですか。でも僕が夢を見ることで誰かの夢を叶えることが出来るかもしれない。「聖くんの歌を聴いて夢を追うことにした」って言われることがあるんですけど、自分がステージに立っている意味や役目はそれだなって思いましたから。
Q.同じようにお客さんからもらうものもあるんじゃないですか?
田中:めちゃくちゃありますよ。僕の前から誰もいなくなってもおかしくないようなことをしてしまって、それでも復帰したら全国に待ってくれている人がいて。そういう人達って僕の音楽だけじゃなくてツアーで対バンするバンドの音楽もちゃんと聴いてくれるし、本当に僕の周りごと愛してくれるんですよ。そんなみんなの為に僕は僕の音楽を極めて、音楽で勇気を与えられるようなアーティストになりたいと思っています。
Q.聖さんが音楽を続けてくれて本当に良かったです。
田中:当時、歌がどんどん歌えなくなる夢を毎日見ていて。それが本当に辛かったし、音楽は諦めて違う仕事を考えたこともあったんですけど、やっぱり僕にはこれしかなかったんですよね。やり直し方も、恩の返し方も、罪の償い方も、これしか知らなかった。なので真摯に向き合わないとなって思ったんです。
Q.その「これしかない」という言葉がこのアルバムの1曲目で聴けたことは聖さんの決意表明だと受け取りました。
田中:ありがとうございます。僕にはこれしかないですから。
タイトル:Easter
NOW ON SALE
KOKI-001
3000円(+税)
Tanaka Koki presents Easter TOUR2019
3月2日@八王子Match Vox(東京)
3月3日@静岡Sunash(静岡)
3月8日@高松DIME(香川)
3月9日@松山サロンキティ(愛媛)
3月10日@高知X-pt.(高知)
3月14日@下北沢Reg(東京)
3月16日@金沢vanvan V4(石川)
3月17日@新潟CLUB RIVERST(新潟)
3月21日@HooK SENDAI(宮城)
3月23日@苫小牧ELLCUBE(北海道)
3月24日@札幌COLONY(北海道)
3月31日@横浜BAYSIS(神奈川)
4月6日@柏PALOOZA(千葉)