6eyesのフロントマンとしてその圧倒的な存在感とセンスで名古屋インディーシーンのリヴィングレジェンドとして2002年の結成より数々の作品を世に放ってきたツチヤチカら。6eyesの活動と並行し、近年はラップバトルにも参加しているツチヤがバトルで見せる容赦の無いユーモアに夢中になっている自分がいたのだが、やはりあの時感じた予感はホンモノだった。2018年10月より100曲を目標にサウンドクラウドに公開され始めた『Big Beat for 201x』と名付けられた彼のソロ楽曲が公開される度に布団にくるまってドキドキしながら聴いている。そして誰かに伝えたい、届けたいという謎の使命感からついついツイートしてしまう。中でも名古屋弁剥き出しのリリックが冴えわたる「金玉」をモチーフにした楽曲の破壊力はとんでもない。思いっきり下ネタなのに何故か慈愛を感じてしまうその魅力。捲し立てる名古屋弁の汚さの向こう側にある何周もして感じる知的さ。そして2019年4月、物凄いペースで新曲がサウンドクラウドに公開されていく中で発表されたソロアルバム『ツチヤチカらのツチヤチカら』でツチヤは誰も止められない次元に突入したのだ。「金玉」でこんなにかっこいいなんてズルい。ツチヤチカら、とんでもない。
Q.ツチヤさんがソロ名義で音源を公開するようになったきっかけは?
ツチヤ:一番最初はiPhoneのガレージバンドで曲を作るようになったのがきっかけですね。元々は6eyesのアイデアとして始めたんですけど、メンバーが仕事の都合とかで中々集まれなくなったから、そのフラストレーションを解消する為にソロを始めました。
Q.それが『Big Beat for 201x』と名付けられたトラックの数々だったと。
ツチヤ:そうですね。僕、ケミカル・ブラザーズを全然聴いたことがなくて、勝手にダサいって決めつけていたんですよ。でも聴いてみたら滅茶苦茶かっこよくて。それでガレージバンドでケミカル・ブラザーズみたいなビッグビートを作ってサウンドクラウドで公開していったんです。
Q.物凄い勢いで公開されていきましたよね。
ツチヤ:ほぼ毎日上げていました。でも途中でインストに飽きちゃってヴォーカルを入れてみることにしたんです。これ、書いていいか分からないけど、そのタイミングであるタレントから曲の依頼があって2曲提出したんですけど「イメージをそこなう為NG」って言われて。それでそのトラックを使って「聞かせよ、金玉の話を」を作ったら今までにないくらいの反響で。それまで友達すら聴いてなかったのに。
Q.名古屋弁で畳みかける感じも滅茶苦茶かっこいいですよね。浅井健一さん、TOKONA-Xさんに通づるものを感じます。
ツチヤ:もはや名古屋弁なのかどうかも分からないですけど、地元のじいさんとかああいう喋り方の人が沢山いるんですよ。「金玉人形」みたいな理不尽なことを言ってくるおじさんっているじゃないですか。僕、接客業をやっていたんですけど、ああいう滅茶苦茶なおじさんって本当にいるんですよ。
Q.今回のアルバムの殆どのタイトルに「金玉」というワードが付いていますが「NEN!MATSU」はタイトルに「金玉」という言葉を使わずに金玉のことを歌っていますよね。
ツチヤ:「NEN!MATSU」は「聞かせよ、金玉の話を」の前に作りました。なのでエッセンスとして金玉が出てくるくらいで。あと名古屋弁で歌ったのも「NEN!MATSU」が最初ですね。TOKONA-Xみたいにかっこよく歌えない追い目はずっとありますけど。当たり前ですけどTOKONA-Xはちゃんとラップしてますからね。僕のは何か、語りっていうか何て言うか。
Q.でもツチヤさんは近年ラップバトルにも参加してがっつり爪痕を残しているじゃないですか。
ツチヤ:きっかけは「森、道、市場」で1回目のラップバトルがあったときに武部くん(LIVERARY)に誘われたことなんですけど、鎮座DOPENESSとか呂布さん(呂布カルマ)が出るのに僕みたいな素人が参加するのは嫌だって断ったんですよ。でも吉田くん(トリプルファイヤー吉田)が出てるのを見て「出れば良かったな」って思ったんです。ちょっとラップバトルを真面目に考え過ぎてたんですよね。いや、真面目に考えないといけないんですけど。それで2年目に予選から参加したのがラップバトルを始めたきっかけですね。それからUMBとかKOKに応募してみたんですけど、やってみたら滅茶苦茶面白くて。
Q.KOKの予選で漢さん、ERONEさん、FORKさんがツチヤさんのラップを解説しているのは面白かったですね。
ツチヤ:見る人が見たらふざけてるようにしか見えないと思うんですけどね(笑)。でもHIP-HOP自体は好きなんですよ。正直、日本のHIP-HOPはイルマリアッチしか聴いたことがなかったけど、90年代のUSのHIP-HOPは好きで。だけど自分にはラップは出来ないと思っていたんです。だから名古屋弁でラップするTOKONA-Xが滅茶苦茶かっこよくてイルマリアッチを聴いていたんです。それが20年前くらいかな。その頃の僕はSURGELY AFROというバンドでHIP-HOPっぽいアプローチはしていてTOKONA-Xにデモを渡したこともあるんですけど関われなくて。それが今JET CITY PEOPLEと関わるようになってHIP-HOPとの繋がりが出来たり、呂布さんと曲を作ったり、この歳になってラップバトルに出たり、自分でも面白いなって思いますね。
Q.いや、滅茶苦茶面白いですよ。ツチヤさんのアイデンティがいきなり確立したなと。
ツチヤ:もっとかっこいいことで評価されたいですけどね(笑)。
Q.トラックとか本当にかっこいいと思いますよ。
ツチヤ:最後の抵抗じゃないですけど、トラックはかっこいいものを作りたいんですよね。歌詞が歌詞なので変にギャグっぽくならない為にもそこは意識しています。
Q.歌詞はどんなシチュエーションで書いているのですか?
ツチヤ:正直、歌詞は書かないんですよ。トラックを作って、そのトラックを聴きながら大筋を考えたらあとは何も決めないでノリで録るんです。だから歌詞を教えてくれって言われたら自分で耳コピして書き起こさないといけないんです。
Q.じゃあライブで完璧に再現されているのは?
ツチヤ:耳コピです。耳コピしてから練習しています。曲をぼんぼん作っちゃうから新曲を覚えるのは大変ですね。
Q.アルバムを聴くと大筋のテーマとしては「金玉」がありますけど、「パーティー」というワードも6eyesの曲を含めて重要なのかなと思うのですが。
ツチヤ:「パーティー」は完全に語感ですね。ロックってよく「レディオ!」とか言うじゃないですか。それと同じで「パーティー!」ってノリで言ってるだけですね。テーマというよりリズムです。
Q.なるほど。ちなみに曲の登場人物はみんなバラバラなんですよね。
ツチヤ:はい。「金玉」の曲は大体50代から70代くらいの独身のおじさんや嫁に先立たれたおじさんで、「パーティー」の曲は30代くらい。「金玉」と「パーティー」が繋がるのは「聞かせよ、金玉の話を」くらいですね。パーティーで盛り上がってる若者の話をおじさんが聞きに行くっていう。どうでも良いですけど(笑)。
Q.そういった登場人物が「振り返る金玉」で大集合するのも最高です。仮面ライダーの最終回でライダーが全員集合するみたいな。
ツチヤ:そういうイメージはありますね。アルバムの最後でみんなが自己紹介したら面白いなと。
Q.ツチヤさんが一番好きなキャラクターって誰ですか?
ツチヤ:「金玉人形」のおじいさんは好きですね。心を置いてる友達には割と「くそたわけ」とか言っちゃうけど、実は小心者みたいな。そいうタイプの人なんですよ。もしかしたら自分に近いのかもしれないですけど。
Q.どのキャラクターも言葉は汚いけど優しいですよね。自分を犠牲にしてまで溺れている人を助けたり、孫の為に自分が人形になったり。
ツチヤ:「(有)金玉査定社新人研修」もお客さんの為ですからね。僕、手塚治虫が好きなんですよ。ブラックジャックとか優しいじゃないですか。そこは影響を受けているのかもしれないです。
Q.「(有)金玉査定社新人研修」のようなレゲエアプローチは6eyesの「Triple」っぽさもあって好きです。
ツチヤ:ああ、それ嬉しいです。曲のことをあまり言われないので(笑)。「(有)金玉査定社新人研修」も「Triple」も僕のやりたいレゲエってパンクバンドのやるレゲエなんですよ。ザ・クラッシュの「The Guns of Brixton」とかザ・ストラングラーズの…何て曲だったかな。
Q.「Nice ‘N’ Sleazy」とか。
ツチヤ:ああ、それです。「The Guns of Brixton」とか「Nice ‘N’ Sleazy」のような曲を自分で作りたいんですよね。だから6eyesの「Triple」もだけど、僕の作るパンクレゲエっぽい曲は、ザ・クラッシュとザ・ストラングラーズの影響ですね。「(有)金玉査定社新人研修」もそのイメージで作ったから、そう感じ取って貰えて嬉しいです。
Q.あと面白いのは金玉の曲なのにどの曲もちゃんと格言みたいな言葉が入っていることも素晴らしいなと。金玉を隠れ蓑にしたメッセージソングだなって。
ツチヤ:特に何か言いたいことがある訳じゃないんですけどね(笑)。よく「命を削って音楽を作っている」とか聞くけど、歌詞も曲も僕は本当に小手先だけで作っているので。全部iPhoneで作ってるし、別にグレードを上げようとも思っていないし。だからよっぽど軽薄だと思います。あるもので簡単に作ってるので。
Q.凄腕のシェフが目の前の材料だけで美味いものを作ってしまうみたいな。
ツチヤ:そんな良いものじゃないですよ。これ、ガレージバンドの宣伝になっちゃうけど、ある程度のクオリティのものはガレージバンドがあれば作れちゃうんです。音楽なんて本当はそれくらいで良いんじゃないかって思うんですよね。SNSとかを見ていて感じるのは音楽にひれ伏せちゃってる人っているじゃないですか。何処か宗教っぽいような。
Q.熱狂するがあまり。
ツチヤ:そう。勿論自分もザ・ローリング・ストーンズに夢中になったし、ベンジー(浅井健一)やヒロト(甲本ヒロト)に衝撃を受けたけど、そんなの俺もやれるがやって気持ちもあって。だからSNSで「ツチヤチカら、天才」とか言われると、そういうのはちょっと違うかなって思っちゃう。音楽なんて簡単に作れるし、瞬発力でやってるから。ザ・ローリング・ストーンズが「It’s The Singer Not The Song」って歌ってたけど僕は逆に「It’s The Song Not The Singer」だと思っているんですよ。歌っている奴より曲だろって。勿論自分がやってることだから「ツチヤチカら、やばい」って言われたら嬉しいですけど、曲がどう伝わったかの方が全然大事っていう。
Q.その届くスピードもサウンドクラウドで公開することでほぼリアルタイムで届けられるのも素晴らしいですよね。
ツチヤ:自分で作って気持ちが盛り上がっているのって、曲が出来たその瞬間なんですよ。だからその場で聴かせることが出来たら一番嬉しいんです。そういう意味でも毎日曲を公開していたのは反応もダイレクトに知れて面白かったですね。「金玉」以外全然ウケないのも直接伝わるから落ち込みますけど(笑)。
Q.名古屋弁についても言及したいのですが、「おみゃあ」とか「たわけ」みたいな言葉をリズムとして取り込んでいるのが音楽的にかっこいいなと。
ツチヤ:それ、呂布さんにも言われました。ラッパーがリズムを取るために言葉で接続するような感じがするって。おじさんを憑依させてるだけなんですけど。
Q.あとは「金玉の嫁入り」や「金玉交換」のような発想力も凄い。
ツチヤ:「金玉」って言いながら「金玉」を思い描いてないですからね。下ネタだけど下ネタとして歌っていないというか。
Q.なるほど。だから愛を感じるんですね。「ハ・み・デ・た金玉」では本来かっこ悪いはずのものをかっこいいと肯定していたり。
ツチヤ:CHAIじゃないけど、コンプレックスを肯定してみようかなって。それで「ハ・み・デ・た金玉かっこいい」って言い続けているっていう。でもCHAIに送ったけど何の返事もないです(笑)。
Q.「人喰い金玉人形」は魔人ブウの体内に吸収された悟空とベジータを連想しました。
ツチヤ:ドラゴンボールは小3の息子が滅茶苦茶好きだから強制的に情報が入ってくるから、知らんうちに影響を受け取るのかもしれないです。
Q.息子さんはツチヤさんの曲を聴いて何て言ってます?
ツチヤ:この前「父さん、アホみたいな曲ばっか作っとるよな」って言われました(笑)。
Q.まだまだネタはあるのですか?
ツチヤ:100曲作らないといけないので考えなきゃいけないですね。去年の10月から作り始めたので1年で100曲はいきたいです。ちょっと飽きてきてるので何か違う手法がないか考えたりもしているんですけどね。何も見つかってないですけど(笑)。
Q.しかし6eyesとして長年活動してきた中で、ここにきてこういうスポットの浴び方をするとは。
ツチヤ:自分でも全く想像してなかったですからね。だから正直、複雑な気持ちもありますよ。バンドでも色々考えてやってきたんだけどなって。
Q.でもツチヤさんのソロがきっかけで逆に6eyesに辿り着いた人もかなり多いのでは?
ツチヤ:それは凄く感じますね。あと自分にも影響があって、ソロのライブで「おみゃあ」って言うのはお客さんを見立てて言ってるから、ライブではお客さんに語り掛けるようなライブをするんですけど、6eyesって真逆だったんですよ。客席に入っていくけど、それは「どけ」って感覚だったので。そこは少し変わってきましたね。金玉が6eyesにフィードバックされているなって。
Q.ソロと6eyesは乖離していると思っていたのですが繋がっている部分もあるんですね。
ツチヤ:そうですね。でも最近6eyesで曲を作っても歌詞が「金玉」みたいな歌詞になっちゃうんですよ。メンバーにも「それ金玉みたいじゃん」って言われるので。それが今の悩みです。
ツチヤチカら
タイトル:ツチヤチカらのツチヤチカら
■AppleMusic
https://music.apple.com/jp/album/ツチヤチカらのツチヤチカら/1459320958
■Spotify
https://open.spotify.com/album/0o56GQJdiC7cZqCdFiQsN8?si=GTSS0SniRna-C4cQw-FKCw